概論で説明したように、力は腰椎、脊椎を通って肩から先へ伝播します。

 

肩から先を柔軟に使って、という表現は様々なところで見受けられる。その際、ムチのように、という言い方をする人も多い。

 

なんとなく分かります。波状に伝播する動きを説明するにはとても分かりやすい。 ひと言でいえばしなやかにということですね。

 

ただ、よく読むとムチ打ちを文字通り実行することを薦めているのです。鍵盤にピシッパシッという感じに、とかです。

 

この辺りがもっとも危険な個所です。明察を欠いたというか、音を聴いて判断していないと言わざるを得ないのです。

 

文字通りムチのように使って、どうやって音が出るポイント(アフタータッチ)を正確に探ることができるでしょう?ピアノは打楽器か、で述べたとおり、ここに弾く人のエネルギーの加速の頂点を合わせなければなりません。ムチで本当に微妙なコントロールができると思いますか?

 

もうひとつ、ムチは振らなければダランと垂れ下がりますが、人の腕はそうではない。質量もまったく違う。こういった差異は大切です。

 

これを考慮しないと、加速感を様々に変化させて音を変化させることは不可能です。抽象的で分かりにくければ「やったー!」と短く叫ぶのと、深く納得して「うーむ、成る程!」とうなずく差を身体で表すことはできるが、ムチで表すことはできない、という例を色々なシチュエーションに置き換えて試みてください。