ここで本質的なことをいうのはかえって分かりにくいでしょう。つまり、テクニックとはあらゆる事柄を含む、等の決まり文句です。

 

それはもちろん正しいことですが、人が漠然と考えるのはやはり速いパッセージなどのことでしょう。ふつう言われるのは二十歳までが勝負、などですね。

 

その点ははっきりと否定しておきます。あくまで正しく指導され、正しく練習した場合ですが、ふつうに暮らしを営める限り、と答えるのが妥当です。若いときにテクニックを、年を取ったら音楽を、などはまったくの戯言です。年を取ったら力はなくなるから、若いうちは指をとにかく動かして弾いてよい、というとんでもない忠告すら耳にしたことがありますが。

 

十代、人によっては二十代前半くらいまでは、とにかく練習さえしていると、上達しているように見えます。それも上達と言えるかもしれないですね。でも、あっという間に上限に達します。それ以降は衰える一方だというのが現実でしょう。

 

ふつうの体力や運動能力と同じです。幸い、ピアノ演奏に必要な筋肉は主に背中と肩で、その筋肉は決定的に衰えるのはずっとずっと先です。かんたんに言えば、胴体からの力をいかに指先にまで伝達させるかがピアノのテクニックです。みなさんが何となくイメージするように「指」を動かしているのではありません。禅問答のようになっていやなのですが、「指」とは何か、そのコツをつかむことが長い期間にわたってなお速くきれいに弾くただひとつの道です。

 

いたずらに「正しい」方法を探し回り、何となくグループに属し、漫然と練習しながら衰えていく、そういった人が少なければ、私はこのようなホームページを立ち上げる必要はないのです。音大のレッスンもはるかに身のあるものになっているはずです。