ではピアノ演奏にあたって、腰の重要性はどのように言われているでしょうか。一番よく耳にするのが「背筋を伸ばして」「腰をグッと入れるような感じに」などでしょう。本当は身体のすべての部分や動きは連動していますから、それに沿った記述ができれば一番良いのでしょうが、文章でそれをすることは不可能です。ですからよく言われることがらを部分的に取り上げて、それを(批判的に)記述してみます。

 

立ってするふつうの動作、スポーツなどを思い起こしてみましょう。その際、ひざをまったく曲げずに動いたらどうなりますか。

 

もちろん動きにくいですね。ひざの役割はまず第一に地面から受けるショックを逃がすことです。


私が子供のころ、シーソーの支点からひざを伸ばして跳び下りてみたことがあります。ほんの数十センチなのに、その衝撃たるや大変なものでした(けっして真似しないように)。


そしてそれと並んで大切な役割は、例えばジャンプするといった、わたし達の行動範囲を拡大させること。その能力をスポーツマンはつねに磨こうと努力するわけです。


ひざにゆとりを持たせると同時に、背中はやや丸く保たれています。大ざっぱに言ってひざと背中の関係はこんな具合になっています。これは誰にでも理解できることです。人間の動作は地面からのエネルギーをこうして上体にまで伝えています。

 

ピアノを弾くという動作を考えると、立った動作の場合の地面に相当するのは、言うまでもなく椅子の座面です。地面が出っ張っている状態だとみなせばこれも素直に認められるはずです。椅子に座った状態の腰や背中は地面直近の部分、つまり立った姿勢での足首やひざに相当すると言っても良い。

 

そう考えてみれば「背筋をしゃんと伸ばして」座るというのはひざを伸ばしきったまま動きなさい、ということに等しい。こんなに不自然な、動作をしにくい姿勢がなぜ一番大切なことだと教えられるのか、理解に苦しみます。