つまり、姿勢というものは、動作の目的にかなったものでなければ意味をなさないのです。ピアノを弾くうえで、身体を自由に高音部から低音部まで移動させることは大切です。


コルトーの日課練習の中に、左手で最高音を弾き、次に右手で最低音を弾くのがあります。つまり上体の移動範囲を最大にしているわけです。この運動を立ち上がってやったらどうなるか。


仮に鍵盤がずっと高い位置にあったとしても大変やりにくいですね。足でしっかり踏ん張るように腰かける、という教えもひろくなされていますが、いま記した理由からも賛成できかねます。岩崎叔さんの著書によれば、右足はペダルに置いているから、左足を大きく横に踏み出してしっかり支えるということですが、それでは高音部に移行するときはどうなりますか?

 

もちろんこれは意地悪な指摘でもあります。岩崎さんもその上でいろいろに身体を使いこなしているからピアノを弾けるのです。


でも岩崎さんの本によれば、幅広い音域をカバーするためにしっかり足で踏ん張るとあります。これはまったく意味をなさないと思います。これについては後ほど補足説明をするようになるでしょう。

 

ではどう座るか?そんなに難しく考えなくても良いのです。座るのは基本的にお尻を座面にぺったりあずける感じでよろしい。もちろん足も手?助けするのは構いません。偏平足を検査するのに足裏がどのように床に接しているかをみる装置がありますね、もし座っている状態をそんな装置で見たら扁平尻?だと判断されるような感じとでも言っておきましょう。


背中はピンとしていなければどんな格好でもよい。わたし達の身体のエネルギーが様々なクッションを経て肩、腕に伝達される状態を保つ、それだけが大切です。

 

また、力を出す、という観点からも腰椎、脊椎が自由度を失ってはいけないのです。
ただし、この点に関して今はそれ以上言及することは控えます。ピアノの発音機構、私たちの運動機能、それらをすべて見渡した後でなければ分かりづらいでしょう。

 

往年の大ピアニスト エドウィン・フィッシャーの写真を載せておきます。背中、肩から腕、すべてに力がみなぎっています。腰も安定しているのが良くわかると思います。