ロシア奏法など、世の中には名前が付いた奏法がたくさんあるようです。私は懐疑的です。もっとはっきり言い切れば、特別な奏法などありません。

 

5本の指と1本の腕がある。それを使うだけのことです。もちろんひとりひとりに癖も特徴もあります。国によって、時代によって美観も変わる。

 

それでも、ふつうに信じられているような意味でとくべつ違った弾き方があるわけではないのです。

 

もしもロシアに優れたピアニストが多く出るのならば、それは単純にそれだけのことで、ロシアでとくべつな弾き方が考案されたのでも何でもないでしょう。私がロシア出身のピアニストにどんな感想を持つかはまた別のことです。

 

私の師、コンラート・ハンゼンも日本で紹介されればハンゼンのメソッドということになります。

 

ハンゼンは彼しかできない方法で教えました。それは、では特別な弾き方ですか?違います。彼は彼にできるやり方でもって、その中にはおそろしく根気強くというのまで含まれますが、普遍的なことを教えようとしたのです。

 

ですから私はハンゼンのメソッドというようなものは無い、と答えることにしています。私は私で、ハンゼンを通じて理解できた「普遍的な」ものを私にできる方法で教えようと努めるだけです。

 

メソッド、奏法という名ばかりのものの乱立は、人を惑わすばかりで、何の助けにもならないと言っておきましょう。いろいろな名前のメソッドから私のところへ来る人たちを見るにつけ、そうした気持ちは大きくなります。

 

ひとつ気を付けたいのは、例えば三善メソッドとか言った場合、これは主として教材を指すので、弾き方云々でいうメソッドとは意味が違います。それを決して混同しないように。