前項と関連します。

今日では椅子の高さはあまりにも高いと私は感じています。立ち上がって弾くと弾きづらいのは足が安定しないせいもありますけれど、常識的に指が上ずってしまうからだと分かる。

 

反対にしゃがんで弾いてみると、腕を相応に備えれば決して弾きにくくないことに気付きます。

 

ではなぜ最近のピアニストは椅子を高くしているのでしょうか?おそらく鍵盤に体重をかけ易くなるからではないでしょうか。次項「ピアノは打楽器か」と「猫はピアノを弾けるか」で説明しますが、鍵盤に体重をかけることは絶対に避けなければなりません。

 

それらをすべてコントロールし易い椅子の高さは今日の通例よりずいぶん低いはずです。

 

低すぎると和音は痩せます。しかしピアノ用に売っている椅子ならば、一番下まで下げても低すぎて和音が痩せるということはまずあり得ない。理由を告げずに低くして弾かせてみたら面白いでしょう。たいていの場合、驚くほど音が響き、しかも丸みを帯びます。

 

ただしこの効果はそのとき限りであり、その高さだけが音の豊かさや丸みをもたらす「魔法の薬」ではないのは言うまでもありません。姿勢の変化が一時的に音の変化をもたらしたものです。

 

でも低い椅子を高くしてもそうしたプラスの変化をもたらすことはありません。